(2015.4.30付けの「よくある質問」にリチウム電池の輸送制限に付いての動きが出ましたが、あれから何か進展はありましたか?)

Q.
2015.4.30付けの「よくある質問」欄に3月の上海で開催された2015 World Cargo Symposiumでのやり取りが報告されていましたが、その後の進展がありましたら、是非、お聞かせください。 (2015.6.01)
A.
2015年4月27日から5月1日にかけて、カナダのモントリオールでICAO Dangerous Goods Panel (DGP) の作業部会 (WG) の会合があり、本年10月までにリチウム電池の包装基準を強化するためタスク・グループ (Task Group – TG) が設立されました。採択された主な提案は:
提案 2/14 - 熱暴走の可能性を最小限に抑える実務的な方策の確立;
提案 3/14 – 熱暴走の可能性を軽減するため、輸送される電池の充電率を 30% 以下に制限することの是非;
提案 8/14 – ジェルのような冷却材の混入も含む、実践的な包装方法の改善により、熱暴走の発生を軽減する試み。
本年10月12日-23日の ICAO DGP会議に報告、2017年-2018年版のICAO TIに反映させる。

2013年に行われたアメリカ航空局の実験 (US FAA William J. Hughes Test Center) によれば、リチウム電池が過熱したり、ショートすると爆発性のガス (主として水素ガス) を発生し、蓄積すると高熱、発火、熱暴走と続き、航空機常備の消火装置では鎮圧できない。ボーイング社やエアバス社をメンバーに持つICC AIA (International Coordination Council of the Aerospace Industry Association - 航空宇宙産業協会の国際調整評議会) は航空業界にとって『容認できないリスク』と断定した。IFALPA (International Federation of Air Line Pilots Association – 航空機パイロット団体の国際連盟) も ICC AIAの主張を全面的に支持している。ICAO Safety Management Manual, ICC AIAとIFALPA はリチウム電池の輸送により生ずる『容認できないリスク』に対し早急に対策を確立するよう ICAO DGP に迫った。
その動議を受けて、ICAO DGP WGは:
a) 旅客機でリチウム・イオン電池をより安全に輸送できるよう梱包の改善及び輸送要件の拡充、
b) より安全な対抗が見いだせなければ、旅客機に大量の (high density packages) リチウム・イオン電池の搭載を許さないこと、
c) 貨物専用機でリチウム金属電池及びリチウム・イオン電池をより安全に輸送できるよう適切な梱包並びに、適切な輸送要件を確立すること。
IFALPA は別のペーパーを提出し、貨物専用機にリチウム・イオン電池を大量に (high density packages) 搭載することに対する制限を設けるよう要求した。この根拠は貨物専用機の消火システムは旅客機に義務付けられているレベルよりも低く、リチウム火災に対しては旅客機よりも鎮圧能力が落ちているので、返って貨物専用機の方が事故率が高くなると言う理由である。
このIFALPAの動議に反論してPRBA (Portable Rechargeable Battery Association – アメリカ電池工業会) とNEMA (National Electrical Manufacturers Association – アメリカ電化製品工業会 – 会員 450社) は、電池事故は滅多に起きるものではなく、電化製品の製造、物流、販売を脅かし、一般消費者に多大の迷惑をかけ、社会の進歩を損ねると揃って反対した。更に、規制を必要以上に強化すれば、背に腹は代えられず、無申告でリチウム電池の輸送を企てる輩も出てくる懸念もある。
強硬な意見としては、たとえ正規品であっても貨物室の消火設備では火災を制圧できないのであるから、そのような火災にも対応できる消火装置が出来るまで、一切、輸送禁止にすべきだと言う声もあった。
会議の中で、「大量の」(high density packages) と言う曖昧な表現では量が確定できない。数字で表すべきと言う提言もあった。
結論としては、ICAO DGP WG の目的は「禁止する」ことではなく、「安全に輸送できる」方法を10月までに求めることで幕をおろした。
PRBA (アメリカ電池工業会) が救命器具に小さいリチウム金属ボタン電池が装着されている場合は適用免除にしてほしいと言う提案があったが、否決された。

[閉じる]


Copyright (C) 2003  Kinoshita Aviation Consultants All rights reserved.